2026/7/24
第四夜 自販機のホットレモン
夜勤明けの彼女のたのしみは、駅前の自販機のホットレモンだった。
冬の間だけ現れて、春になると黙って消える。義理も未練もない、いさぎよい飲みもの。
その夜、小銭を入れたら、先客の買い忘れがひとつ、取り出し口に残っていた。あたたかいままの、ホットレモン。
きょろきょろと見回すと、改札の方へ走っていく背中。追いかけて、渡して、それだけのはずだった。
「──あの、これ」 「え、わざわざ? ……ありがとうございます」
振り向いた顔に、見覚えがあった。三番目のドアの、あの人だった。
世界がすこし、あたたかい方へ傾いた音がした。
(つづく)

感想1 件
綿貫 さく2026/7/25
ホットレモンが伏線になる恋、ずるいです。冬の自販機の前を通るたびに思い出しそう。
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